カルテとコーヒー


突き当りの広いスペースに出たところで、
一気に視界が開けた。

壁に沿って広がるワイン色のソファと、
巨大な黒いテーブルに乗った
無数のボトルとグラス、
それに、カットフルーツが随分と
お洒落に飾られ、小さなパフェも
並んでいた。

ソファの中央には、
まるで帝国の王様のように深々と腰かけ、
両脇に美人を置いて足を組む、
中沢が待っていた。


「よぉ」


たったその一言が、
優子には恐怖に感じられた。

優子の立つ後ろには
男女がぎゅうぎゅう詰めに踊っているというのに、
目の前には先ほどまで一緒にいた
数人の男子たちと、
やたらと露出の激しい女性たちが
コロニーになって座っていた。

まるで貞操のない大富豪の遊びだ。

そう思いつつも、優子はずっと
見えない親友の姿を探していた。


「あの…南は?」


速まる動悸を抑えて優子がつぶやくと、


「南ちゃんは?」

足立が通訳のように中沢に尋ねた。


「あぁ…」


フンッと鼻で笑うと、
にたぁと不気味に歯を見せて、
人差し指を上に立てた。


「まじか…」

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