カルテとコーヒー
秀頼の顔が、声が、
全部が走馬灯のように浮かんでくる。
帰らなきゃ…
帰らなきゃ!
「やめて‼」
頭で考えるより先に、
自分でも驚くほどの声が出ていた。
一瞬、腕にかかっていた力が
緩んだところで、
優子は咄嗟に男たちの間をすり抜け、
距離を取った。
そして、ポケットに入れていた
スマホを男たちの前に突き出した。
「近づいたら、警察呼びますよ!
貴方達の写真も撮って、
みんなに見せつけます!」
乱れた服と息を整えて、
動けなくなっていた男たちを睨みつける。
本当は腰が抜けそうなほどだったが、
恐怖を見せては負けてしまう。
「南、おいで」
「ぅ、うん!」
立ち上がった南の腕を、
しつこく止めるように男が掴んだ。
「離して!」
南は今日一番のきつい口調で
その手を振りほどいた。
南が横にきたところで、
優子は南の手を取った。
上手くいった…!
そう安堵したのも束の間…
「手こずってるみてぇだな」
…!!
階段のすぐ前に、
中沢と数人の男女が
不敵な笑みを浮かべて立ち塞いでいた。