カルテとコーヒー


優子の視線に気づいた潤は、
秀頼との会話を終えて、
歩を進めながらも優子に近づいてきた。

「どうぞ」と言うように視線を向けて、
潤は南の隣を歩き出した。

優子は小さく頭で礼をして、
秀頼の隣に駆け寄った。


「先生、ありがとうございました」

「どういたしまして」


秀頼は前を見たまま言った。
こんな時でも、秀頼が何を考えているのか
分からないのがもどかしい。


「でも、どうして?」


優子が秀頼をもう一度見上げるも、
秀頼は淡々と答えるばかりだった。


「心配だった。お前の言う通り、
 止めればよかったよ。すまない」

「謝るのは私の方です。
 迷惑かけてごめんなさい」

「いいよ。お前を助けるのが
 俺の役目だと思ってるから」


サラッと言われたその言葉に、
優子は思わず足を止めそうになった。


「…それって…?」

「…いや、なんでもない。
 とにかく、あんな危ない場所
 ほいほいついていくんじゃないぞ」


自分の頬がわかりやすく緩んだのを、
優子は気にもしなかった。


「はい!」


にやけるのを抑えきれていない優子を、
秀頼は大きくため息をついて見下ろした。


「本当にわかってるのか?」


わかってますよ~と浮足立って、
優子は秀頼の横にピタッと張り付いた。

反省することはいくつもある。

でも、ただ一つ確かなことは、
南には感謝することもあるようだ、
ということだ。

「空」の表示のコインパーキングが並ぶ細い夜道で、
4人は明るくなっていく空を見上げて歩いた。

秀頼は後ろにいる潤に背中越しに言った。


「カンファまであと何時間?」

「3時間」

「相変わらず早いな、麻酔科医は」

「貸しだからな」

「わかってるよ」

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