カルテとコーヒー
「先生…疲れてますか?私が近くにいると」
「どうしてそう思うんだ?」
秀頼が最初に手に取ったのは、
線香花火だった。
早く終わらせたいという表しなのか…
なんて。
そうであってほしくないと願いながらも
高校生みたいな思考になってしまう。
「私は先生を癒したいって、
おこがましいですけど、思っています。
でも、年の離れた学生が家にずっといるのも
気疲れしたりするのかな…って」
「年の離れたって言っても、俺もまだ30…
いや、今年で31か」
そう言ってフッと口角を上げた。
優子も秀頼に続いて線香花火に火をつけた。
パチパチと音がなり、
散り菊は、やがて大きく広がりを見せる。
「まぁ、お前から見たらおじさんか」
「そんな!私は年なんて気にしません」
優子が顔を上げると、
「俺もだよ」
秀頼の返事は早かった。
「変なこと気にしなくていいから、
お前はまじめに勉強して、
大学生活を楽しめばいい。
俺のそばにずっといる必要もないんだ」
「…」
優子は再び視線を落とし、
もぞもぞと呟いた言葉は、
線香花火のそれに掻き消された。
「ん?」
秀頼が優子に視線を向けた。
それに気づきながらも、
なぜか目線を合わせることができない。