カルテとコーヒー


ん?
と秀頼はパソコンから
視線を外すことなく言った。

ここで平然としているのが
大人の取り繕い方と
いうものなのだろうか。

優子は黙ってその細くて長い、
かつ男らしい指を眺めていた。


「あったかい」


そう呟くと、


「お前の手が冷たい」


と、もう片方の空いた手で
コーヒーをすする。


「血管が収縮して末梢は冷え、
 血流が内臓に集中する…」

「?」


優子が秀頼を見ると、
秀頼もパソコン画面から
優子に視線を移した。


「つまり、心拍数が上がっている」


至って真面目な表情と声のトーン。

だが、眼鏡越しのその目は、
秀頼お得意の意地悪なそれだ。

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