カタカナは嘘
希望
体育倉庫の中。
私は冷たいマットの上に転がっていた。
隣には親友のサヤカもいた。彼女はひどく怯えて、体を震わせている。
私たちは手を縛られて身動きができない状態にされていた。
目の前の獣たちの手によって。
「へへ、俺たちを楽しませてくれよな」
息を荒くした獣たちがにじり寄り、私たちの体に触れようとしたその時。
体育倉庫の扉が鈍い音を立てた。
重い扉がゆっくりと開き、光が入り込んできた。
男が立っている。
「誰だ、てめえ!」
「今取り込み中だ。入ってくんじゃねえ!」
獣たちが威嚇すると同時に、その男は中に飛び込んできた。
そして、彼は目にもとまらぬ速さで獣たちをなぎ倒していく。
シュッとしたオーラをまとう彼は、細身なのに力強い出で立ちで、妙な安心感があった。
男はかげりのある表情でつぶやいた。
「心配させやがって、大丈夫だったか」
親友のサヤカがぐいっと前に出て答える。
「助けにきてくれたんだね……信じてた」
私はサヤカの後ろでうつむいていた。
「お前じゃねえ」
「えっ?」
倉庫内の空気が一瞬にして凍り付く。
何が起こったのかわからず、私は思わず顔を上げる。
その時、男と目が合った。
クールな視線の奥に、わずかな優しい光が見えた気がした。
< 1 / 13 >