he said , she said
ひそかに心待ちにしていた連絡は、株式会社サカキを辞した数時間後の夕刻にメールでもたらされた。

自社のデスクで、ポップアップのメール通知にはやる心を抑えてクリックした直弥は、差出人の名が「寺島陽香」であることに気づいて小さく舌打ちをした。

『本日はご来社いただきありがとうございました』という儀礼的な文言の後にところで、と続いている。
『お帰りになった後に、片岡さんが座っていらした椅子にボールペンの忘れ物がありました。もし片岡さんの物でしたら、当方で保管しておりますので、お手数ですがご確認お願いいたします』
という文章とともに画像が添付されていた。

言わずもがな、直弥がわざと置いてきたボールペンだ。古典的な手法だが、なんだかんだ使えるのだ。

そこいらの文房具店やコンビニで手に入るような物ではない。ビジネスパーソンの必需品としてよく名が上げられるメーカーの品を直弥も愛用していた。書き心地の良さもさることながら、細部の安っぽさは持ち主の格まで落としてしまうからだ。
< 10 / 51 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop