he said , she said
食べ手の感性を刺激する料理は、まだぎこちない間柄の男女に話題を提供してくれる。

直弥と瞳子は口々に味を賛辞し、隠し味や調理法についてあれこれ考察した。
味覚の確かさから、彼女の家庭環境の素地が垣間見える。

瞳子は恥ずかしそうに、普段は母と祖母に頼りきりで、自分はめったに台所には立たないと打ち明けた。

「お祖母(ばあ)さんと一緒に暮らしてるんですか」
核家族化のご時世では珍しいことだ。

「母方の祖母なんです。父はわたしが学生時代に亡くなったもので。今は女三世代で一つ屋根の下に住んでいます」

父を亡くしたという言葉に、反射的に表情を引き締めてみせたが、内心には後ろぐらい安堵がある。
交際相手の父親ほど男として畏怖を感じるものはない。
姫を守る強力な騎士はすでに亡いのだと知る。

瞳子の表情や言葉に暗い影は感じられない。暮林家は穏やかな女世帯を営んでいるのだろう。
おそらくは一人娘の瞳子を心の主柱として。
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