he said , she said
さて、と直弥は自分に言い聞かせる。
ここは大事なところだ。焦ってはいけない。

感想から話を弾ませ、できればここで次の約束を取り付けたいが、がっつくと警戒されてしまうだろう。

直弥は大学の卒業旅行で行ったルーブル美術館を話題にした。
「学生なので貧乏旅行でしたけど。友達に歴史マニアみたいなやつがいて、どうしてもハムラビ法典を見たいとかいうもんで。
僕はミーハーなので、三大美女のモナリザとサモトラケのニケとミロのヴィーナスに会えて満足でしたね」

「わぁ、わたしもいつか会ってみたいです」

瞳子は “会ってみたい” と直弥の言い回しをなぞった。
なかなかいい流れだ。そのままこちらにたぐり寄せたい。

「モナリザは防弾ガラスの向こうでしたけど」

「さすが警備が厳重なんですね」

「瞳子さんは海外旅行とか行くんですか?」
さりげなく下の名前に切り替えた。

「友達と何度か。台湾とか良かったです。時差もほとんどないし、食べ物が美味しくて。故宮博物院も行きました」

相づちを打ちながら、その友達に男は含まれているのだろうかと思う。
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