he said , she said
失礼ですが、と直弥は好奇心をそそられたといった調子で口にする。
「寺島さんは以前、アナウンサーとかリポーターのような人前で話をするお仕事をされていたんですか?」

寺島はかるく目を見張ってみせたが、その驚きに不快げな様子はない。
「ええ…そんな華やかなものではありませんが、商業施設でPRスタッフをしていたことがあります。案内嬢といいますか。よくお分かりになりますね」

「滑舌が良くて、声がキレイでいらっしゃるので」
腹式呼吸ができているのだろう。発声が明瞭で、何より鼻濁音(びだくおん)を使っている。
アナウンサーほど完璧でもないし洗練されてもいないが、表情の作り方といいなんらかの職業的訓練を受けた経験があると察しがついた。
どこでそんな知識を仕入れたかといえば、もちろん売れないフリーアナウンサーやリポーターという(たぐい)の女性と遊んだ経験があるからだ。

「いえいえ、それほどでも」
言葉は謙遜しているものの、口元は満足げに緩んでいる。
単純な女だ。
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