he said , she said
とにかく羽振りがよかった。
業績は右肩上がり。働けば働くほどインセンティブが得られ、仕事も利益を生み出すことも、遊ぶことも面白くてたまらなかった。

とはいえそこに、いわゆるバブル経済にも似た危うさを、嗅ぎとってもいた。
流行りものは廃りものだ。いつまでも高波に乗り続けられるものでもない。
次なるステップを模索していたところで声をかけてきたのが、また従兄弟の津島伸樹だったのだ。

それまではさしたる親戚付き合いもなかった。母方の法事で顔を合わせたことがあっただろうかという程度。

母親が従姉妹のりっちゃんとこの(のぶ)くんが、東工大にいってて在学中から起業したんですって、などと話していたのはうっすら憶えていた。
津島もまた直弥の存在を耳にはさんで、お互いの母親づてでコンタクトを取ってきたのだ。
「優秀な人材なら、いつでも喉から手が出るほど欲しい」と語る津島は三十代の始めながら、早くも成功者の香りを(まと)っていた。

システム開発を主軸にしたベンチャー企業の経営者と、優秀なエンジニア。
互いの求めるものは合致しており、話は早かった。二十代の若さで役員の肩書きが得られるのも大きな魅力だった。
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