エリートなあなた
「そもそも真帆ちゃんに謝れっての!」
呆然と栗色の髪を見つめていたところ、その声でダークグレイの目と初めて目が合う。
スーツ姿でダレスバッグを提げた課長は、途端にクールな表情へ切り替わった。
気づいていたはずなのに――どうして今ごろ顔を向けるの…?
「黒岩さん、早く座ってよ」と、松岡さんの声が静寂をあっさり解く。
「――隣、失礼するね?」
「は、はいどうぞ!…お疲れ様です」
バッグを隅へ置き、空いていた隣へ足を沈めた課長。
それに頭を振ったあとは、当たり障りのない挨拶で精一杯。
「ああ、お疲れさま」と短く返って来る。声のトーンは、すっかり仕事中のもの。