エリートなあなた
私の出方を待っているのか。無言の拘束を続ける彼に、根負けしたのは私だった。
「…逃げませんから、」
「分かった。ありがとう」
ぽつりと呟けば、彼の安堵の息とともに右腕は自由を取り戻した。
目尻にまだ残る涙をそっと拭ってから、おそるおそる振り返った。
見上げた先には、いつもの洗練された印象が薄まっている黒岩課長の姿。
「また俺、…吉川さんを傷つけたよね?」
「…え、」
「ごめんな、」と呟いたその声は、あまりに弱々しいものだった。