エリートなあなた
――ダメなのに。本当の優しさじゃないのに。課長が好きなのは、ずっと…。
肩にかけていた通勤バッグを持つ手が、カタカタと小さく震えていたことに気づく。
「…課長は優しいですね、いつも」
「――え?」
むりやり口元を動かしたため、きっとイビツな笑顔が出来ているに違いない。
「すっごく、…優しいです」
見上げた先で切なく笑っている彼に、もう一度重ねて言った。
部下のことを心配したり、憂いてくれる上司なんていない。
まるで月の明りのような黒岩課長のあたたかさは、いつも優しさで満ち溢れているもの。