エリートなあなた
目が合えばどことなく漂っているオーラに、また圧倒されるのは当然のこと。
「さっき俺が尋ねた答えが見えるまでは、…目の前のものをこなすべきだと思うよ。
今は分からなくて良いから、目の前のものにぶつかっていく姿勢こそ一番大事!
そこで得られるモノは必ず、いつか役立つ時が来る――と、経験者は語ってみたりね」
「は、…は、い。あの、ありがとう、ございます」
バリトンの声音で、今の私にはもっとも手厳しい言葉を向けられた。だけれど、不思議と反発心が湧きあがらない。
それはきっと、黒岩課長という自分に縁遠い人物のアドバイスであるからだと思う。
微笑んでくれた彼は腕時計へ目を向けると、“あ、そろそろ時間だ。付き合ってくれてありがとう”と締めて、話はあっさりエンド。
また柔和な顔へと変化するから、黒岩課長という人にものの10分で圧倒される。
立ち上がってから改めて封筒を手渡せば、ふわりと爽やかなフレグランスの香りが鼻腔をくすぐった。