エリートなあなた
ナイショな関係
「松岡さんはただの先輩です!
たしかに素敵な方とは思いますけど、…お兄ちゃんみたいですから」
「…ホント?」
「ええ、誓って!」
本当は松岡さんの名前が課長の口から出た瞬間、のけ反りたいほどだった。
けれど履き慣れたパンプスで、辛うじてそれを耐えたのだ。
ふたたび立ち上がった彼に続くと、両肩に手を置かれて向き直される。
「他の男が好きでも、…もう諦めない。
ごめん――ずっと吉川さんが好きだった、」
「か…、ちょ」
「――いや、好きだ」
中腰で呆然とする私を見つめる眼差しと声音が、ひどく優しく夜へと溶けていく。
「…う、そ、」
「ウソじゃないよ」
「だ、って、…え、みさん、が」
予想外のものに遭遇すると、人は涙が出ない。乾いた目は何度も瞼が往復していく。
何より上手く動かせない口で、対峙する人に問いかける行為がひどく煩わしい。