エリートなあなた
ひとり向かったキッチンで、コーヒーメーカーからマグカップへ熱々のコーヒーを注ぎながら、にわかに生じた罪悪感。
あんな風にすごく喜んでくれたから…、彼女に言えなかったことがひとつある。
言うか言わずにおくべきか、…今だってそのことは迷っているのが本音だ。
テレビのお笑い番組を見ながら大笑いする瑞穂に、声をかけようとしてやっぱり口をつぐむ。
実の姉妹のように何でも知り得てる親友だから結局、言わないでおくべきだと。
「…ねえ瑞穂ー。冷蔵庫のチョコ、食べても良い?」
「うん、持って来てー。あ、梨も食べたいなー」
「もー、ちょっとくらいヘルプしてよ」
「そう言って、包丁握らせないクセに」
「そりゃあそうよー。研究者さんに怪我させられないもん」
そのためキッチンから持ちかけた話題は、なんてことのないものだった。
彼女の性格上、怒るのは目に見えていたし。何より自分の中で、上手く整理出来ていなかったことも理由にある。
――それは幸せを手に入れた代償に抱えた、ただ1つの心配と苦しみだから。