エリートなあなた


結局、私は最後まで会うことはなかったけれど。…その方が良かったと思っている。



やっぱり阿野さんにとって、私は疎ましい存在であることに変わりない。



私にしてもアノ時を思い出すのは、やっぱり快いものではないからだ。



「人事の方、…素早いんですね」


「ヒューマン・トラブルに善処するのが仕事だって、その同期は言ってるけどな」


だから課長がエントランスで出くわした時。素早い行動に移して下さったのか。



――たしか仙台営業所の所長さんは、元・本社試作部の方だったはずだ。



「ご、めんなさい」


「…何で謝るの?」


「私のせいで迷惑ばかり、」


顔を覗き込んで来る彼に申し訳なさが募って。俯いてしまう私の頭を、また撫でてくれた。



「迷惑なんて考えたこと、ただの一度もないよ」


「…でも、」


すっかり冷えてしまった身体をシーツで隠すと、大きな手が左手の指の間に絡んでくる。



< 149 / 367 >

この作品をシェア

pagetop