エリートなあなた
「どうしましたか?」
「ねえちょっと耳貸してくれる?」
彼から唐突に、理解出来ない発言を受けることも慣れては来たけれど。
まったく理由が分からない今の発言。訝しげな顔をしたのも無理はない。
「どうしたんです?本当に」
もう一度尋ねてみても、ニヤニヤと笑みを浮かべているだけ。
――こういう時の表情は、大抵良くない何かを企てているはず。
いくら上司の頼みだとはいえわが身が一番大切だと、顔をふいと背いたというのに。
「いーからー」と腕を引っ張られ、なぜかセミロングの髪を耳へかけられる。
その刹那。さらけ出されていた右耳にふと、生あたたかいものが優しく触れた。
「ひっ…、ひゃああああ!」
――もちろん犯人は松岡さん。なんと彼は私の耳たぶをカリっと噛んだのだ。
そのまま解かれた腕に私は、叫びながら跳ねかえったように立ち上がった。