エリートなあなた
非常に気まずい気分を携えて振り返ると、どこへともなくペコペコして謝罪する。
“さすがに耳を噛まれて叫んでしまいすみません”と、口に出来るはずがない。
もともと優秀者としてだけでなく、試作部内では松岡さんの仰天行動が有名。
特に気にする様子もなく、またかという感じで周囲はあっさり仕事へ戻ってしまう。
それでも私はいまだに、ホッとすることが出来なかった。
構造課のエリアまで数メートルのところで、クールな顔で佇んでいた課長と目が合う。
そのダークグレイの眼差しに居心地の悪さを覚えて、俯き加減で軽く頭を下げて席へ着いた。
すっかり平静を取り戻した、どころか。冷水を浴びたように心は冷え冷えとしている。