エリートなあなた
するとこちらへデスクチェアごと向いた彼は、また頭を撫でながら優しい目をする。
「あんなので動揺してたら身が持たないでしょ?」
「…え?」
髪を触っていた手を外すと、真っ黒な目はこちらへ真剣モードで焦点を合わせた。
「――心配ってね、“心”を“配”るんだよ?
優しさはいくら振りまいたって良いけど、心配の出血大サービスは賛成しないな。
必要なものと不要なものくらい判断できるじゃん。
身体も心もひとつしかないんだよ?ムダなものに骨折るなんて、疲れるよそんなの。
だったら、大事なものを優先するのが良くない?――まあ、どれもテキトーでね」
抽象的な表現で言わんとすることはよく分かる――いちいち惑わされているな、と。
「…松岡さん、」
「さて、行って来よーっと」
おもむろにデスクチェアを立ち上がった松岡さん。
白衣姿で後ろ頭へ両手を組みながら、その言葉を置き去りに部屋を出ていった。