エリートなあなた
片づけもそこそこにそのままオフィスを出ると、すぐにタクシーを捕まえて私をそれに押し込んだ。
後部座席に松岡さんも乗って目的地を告げると、タクシーは静かに都会の喧騒へ紛れるように発車した。
――彼が口にした行き先は、私が一度だけ行った課長のマンション。
「…どういうことですか?」
車の揺れが心地良いのか。走り始めて1分も経たないうちに、傍らでウトウトし始めた人へ視線を向けつつ尋ねた。
「眠いのにー」と言って、大きな欠伸をひとつした松岡さんはマイペースである。
「もー!行き先、…課長のマンションじゃないですか!?
いきなり行くって一体、どういうことですか松岡さん!」
それに我慢ならず、ひとりで憤慨しているのはもちろん私の方だけれど。
構わずにクツクツ喉を鳴らして笑いながら、スーツの外ポケットを探り始めた彼。