エリートなあなた
すると車窓から臨む、流れる夜の都内の景色へと視線を移してしまった松岡さん。
彼の言っていることは分かるけれど、その経緯がすっぽり抜けているから困るのだ。
消化不良な感情が取り巻く中で、ひとまず手渡されたキーケースを膝上へ置いた。
「シンプルに思いをぶつけるべきでしょ?」
「…どうして、」
「黒岩さんのとこ、…あれから行ってないって?」
もう一度、松岡さんを見ようとする。けれど、こちらを向いてくれず横顔しか窺えない。
「なーんかねぇ。真帆ちゃんも黒岩さんも見てると、固意地張りすぎなんだよ。
黒岩さんが大変な立場ってことは重々分かってるし、真帆ちゃんにしても今が踏ん張り時なのも先輩としてよく分かるけどさぁ…。
なんで互いに遠慮してんの?――別にイイじゃん。もっと簡単に、会いたいって言えば」
「…、」
その言葉はぐさり、と心に突き刺さった。どれもが出来ずにいた、奥底の本音だから。