エリートなあなた


うるさい乗客、もとい私たちを乗せた青山のタワーマンション前へ到着したところで。



「黒岩さんのお金だから直帰ー」と、諭吉さん紙幣をチラ見せした彼を乗せて去ってしまった。



ひとり取り残された私の手には、例のレザーのキーケースが握られている。



前にお邪魔した時に、課長が持っていたから間違いはないと思うけれど。



入っていいものなのか、と玄関付近をうろうろしていると、帰宅したらしい住人に不審な目を向けられる。



焦りの色を見せれば余計に怪しまれるはずだし、微笑んで会釈をして誤魔化しとおすことにした。



とりあえず不思議な表情で立ち去ってくれたけれど、このまま留まっているのも問題がありそう。



本人から預かっていればお邪魔する決心が湧くけれど。…さすがに人づてでは悩みどころだ。



そこで一度キーケースをバッグへしまうと、代わりに携帯電話を取り出した。



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