エリートなあなた
“この夜景は帰宅した時のささやかな楽しみ”
そう言った彼が、あえてリビングの電気を点けずにカーテンを開いてくれた時と同じだ。
窓に近づき眺めているのは、東京の街を一望できるタワーマンションからの絶景。
はしゃぐ私を見つめるあの日の眼差しさえ、鮮明に覚えているくらいなのに。
――どうして約束に囚われて、簡単でもっとも大切なことを疎かにしていたんだろう…?
自嘲笑いを浮かべながら腕時計へ視線を落とせば、約束の時間まであと30分。
「急がなきゃー!」
ジャケットを脱いでブラウスの袖を捲ると、慌てながらキッチンスペースへ向かった。
松岡さんの優しさが齎してくれた、彼とのプライベート時間を大切にしなきゃ。
高層階から見渡せる無数のビル群の光とともに、心にあかりがともった気がした。