エリートなあなた


キッチンで料理を始めてから20分――コトコト煮える音に食欲をそそる匂いが辺りを包んでいた。



「…にしても、凄い」


調理器具を見ながらポツリと呟いた言葉はもちろん、感嘆の一言である。



料理は困らない程度に、と言っていた課長。



だけれど、キッチンに入れば謙遜だとすぐに分かった。



圧力鍋だとかタジン鍋用の陶器、さらには食器やカトラリーの数々をみれば一目瞭然。



包丁にしても用途別に数本ある方が、一人暮らし女子でも珍しいのではないかと思う。



むしろ瑞穂みたいに、包丁を握らせることさえ出来ない女子も存在するのだから。



自炊であのスマートな体型を維持出来るんだろう、と不意に考えた自分が恥ずかしい。



「…あ、瑞穂は極論だよね。うん、むしろ記念物だもん」


彼女が聞いたら逆鱗に触れかねないことを呟きながら、湯気を立てる鍋の様子を見た。



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