エリートなあなた
ほんの少しの思いやりが、アノ日と何も変わっていなかった彼の優しさを教えてくれる。
手に持っていたキーケースを返したところ、「真帆の役目でしょ」と受け取らなくて。
結局、静かなフロアを部屋へ到着するまでのわずかな間、2人で手を繋いで歩いていく。
「こんなに早く、…大丈夫ですか?」
「ああ今日は会議もないし、ちょっとバタバタが続いていたからたまには良いよ」
あっという間にドアの前へ着いて手を離すと、もう片方の手で持っていた鍵で開けた。
「…じゃあ、今日は食べたらゆっくり休んで下さいね」
初めの時は彼がドアを持っていてくれたけれど、今日は私の番だから不思議なもの。
「…、」
「どうしたんですか?」
それなのに玄関にも入らず、私へジッとダークグレイの眼差しで何かを訴えている。