エリートなあなた
そして玄関フロアで私の両肩へと大きな手を乗せると、あらためて向き合う形にされる。
「真帆もバタバタお疲れさま」
課長や松岡さんを見ていて気づいたけれど絶対に、“忙しい”のフレーズを言わない。
なんでも松岡さんいわく、忙の字は“心”を“亡くす”って書くためだとか。
それを口にするのはキャパシティが一杯だ、と暗に示しているからとも――
「今週もバタバタ、…お疲れ様です」
相手を労う言葉はやっぱり大切だと実感する。貰った側の心はそれだけで晴れるから。
「やっと笑った、」その声が静寂を響いた時には、私の身体は課長の腕の中にあった。
「ずっと、寂しい思いをさせてごめん。…」
「そ、んな、」
ギュッと背中へ回されて密着すると、ふわりと男らしい彼の香りにも包まれるよう。