エリートなあなた
答えずにいる私を呼ぶ、「真帆」という声色がまた安堵をもたらすと知らない彼。
「何でだろう…?――謝ることばかりなせいですかね?」
久しぶりに間近で見られた綺麗な顔に、ふふっと口元を緩ませながら茶化す。
「フッ、じゃあお互いさま?」
「はい、そうして下さいね」
「分かったよ」の言葉を聞きながら、再びそっと厚い胸の中で目を閉じた。
――何が大切なのかを履き違えて、八方ふさがりの心を作り上げそうだった。
また“ごめん”の往来になるのは目に見えてる。たまには言葉を呑むことも大切だ。
時間軸を戻して悔やんでいるよりも、この時を慈しんで身を委ねたいから。