エリートなあなた
私も遠慮がちに振り向いてまた一礼すると、向き直ってタクシーを呼ぼうとした。
「――ひどいなぁ。今の今まで他人のフリするなんて、」
苛立ちをにわかに含ませた声色。勝手に身体はその声に振り返ってしまう。
「真帆、久しぶりじゃん――覚えてるだろ?」
「…うん――剛史」
その口調は肯定だけでは済まさず、呼び慣れた言い方で口にしろと強要した。
――大学時代に付き合っていた彼、…もとい剛史の名前をはっきり呼べと。
「やっぱり2人って知り合い?…この言い方も変か?」
彼の目を改めて見た時、もうひとつの聞き慣れた声音が混ざりハッとした。
口元に笑みをたたえる目撃者は、この不自然な場面を楽しんでいるらしい。