エリートなあなた
私も頑固と言われる性質だが、彼に及ばない。…むしろ鼻にもかからないだろう。
「いいよ」
軽い調子の声が一言、こちらの思いとは真逆の言葉を発して目を丸くした。
YESの返事はもちろん私でなければ剛史でもない。そう、松岡さんのものだ。
「佐々木くんの終わりって何時?」
「今日は18時ごろかと」
チラリ時計を一瞥すると、彼が松岡さんへ向けた言葉は弾んでいた。
夕刻近くのアポイントだったため、伺った時よりさらに冷たい空気が頬を撫でている。
雲ひとつなかった空も、今はすっかり夜の階段を進むような暗さが覆っていた。
「それなら真帆ちゃん直帰決定。あそこで待たせますから」
業務命令まがいの言葉で私を封じ、そして指さした方向には一軒の有名お手軽カフェが。
「連絡先とか、…って元カレだし知ってるよねぇ」
さらに私をつき落とすことも忘れなかった。これはもう確信犯以外、何物でもない。