エリートなあなた
入れ替わるように扉を潜り抜けたところ、「いらっしゃいませ」といくつもの明るい声とコーヒーの香りが店内に広がっていた。
オフィス街にある店舗で平日の夕暮れ時とあってか、席はいくつか空いていた。
カフェ・モカをオーダーして受け取った私は、2人席の小さなテーブルへ落ち着く。
コーヒーとミルクがブレンドした優しい香りの液体の上で浮かぶホイップクリーム。
外での雑談によっていつの間にか冷えていた身体。それをあたためてくれるカップの温度と中身は心を宥めるようだ。
カップを置いてバッグから携帯電話を取り出すと、時刻は約束の18時まであと30分。
操作をして画面に移されている“修平”の名前を見て、ひとり意気消沈してしまう。
――一段落ついた今日は、メールより彼の声を聞きたくて電話しようと思ったのに。
まさか天敵さんじゃなく元カレに出くわすとは…、さすがに喜べないのは本音だ。