エリートなあなた
「なに笑ってんの、」と、ノックするように頭に触れるところもやっぱり昔と同じだ。
仕事終わりのサラリーマンやOLを横目に、2人で並んで向かった先――それは大通りに面したカフェのすぐ裏にある、小さな洋風居酒屋。
4つのテーブル席とカウンターがあって、私たちは一番奥のテーブル席へ案内された。
「あー、腹減った!」と、座って早々に折りたたみ式のメニュー表を開いた剛史。
「真帆なに飲む?」
「カンパリオレンジ、」
「じゃあなに食べたい?」と言って、次はメニュー表からアラカルトを見せてくる。
適当にチョイスして彼お勧めパスタを頼むと、メニュー表を持った店員さんが下がった。
「ほーんと変わってねえよな」
「…なにが?」
「真帆のパスタ好き」
「――そういう剛史だって、カルボナーラ一辺倒じゃない?」
「この店のヤツが美味いの!ビールとよく合うんだよなー」
そう言ってネクタイを緩めた彼は、よく会社の同僚とここへ訪れているらしい。
向かい合う2人はスーツ姿。それに違和感を覚えるけれど、それこそお互いさまだ。