エリートなあなた


停止した20階――試作部で停止した扉が開いたところで、壁に背を凭れている人と目が合った。
 


お決まりブラックの缶コーヒーを手に、もう片方の手をひらひらと動かしている。



「ぐっもーにーん」


「おはようございます。…松岡さん、どうされたんですか?」


尋ねながら降りたエレベーターは、私の背後で静かにドアが閉まっていた。



優雅にコーヒータイム、というより。張り込みする刑事にしか見えないのは錯覚だろうか?



「マドンナと“掻っ攫いに行ったキング”のその後が、」


「――どうにもなっていません。…私、寝ちゃったので」


修平さんの比喩はともかく、昨日仕入れたソレを早速使用された私は溜め息を吐き出すが。



「…って松岡さん。掻っ攫いって、まさか、」


「…えー折角のチャンスに寝ちゃったんだぁ。その割に今日は機嫌良いねキングさん」


「い、いやいや、それは別の話として…!」


はたと気づいて聞いてみると、やはりすぐに返って来ない答え。もちろん焦りの色を見せた時点で負ける。



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