エリートなあなた
「吉川さん」と呼ばれて顔を上げると、課長は穏やかな顔をしていた。
「その先輩の心配が後輩を救ったのなら、俺も嬉しいよ」
「どういう?」
「実を言うとね…、少し相談されていたんだ」
「…え、」
――黒岩課長が絵美さんから相談を受けていた…?
にわかに信じがたい言葉に目を丸くすると、フッと小さく笑って頷いている課長。
「知ってるかもしれないけど、絵美さんは俺の大学時代の先輩でね。
吉川さんが入って、確か半年くらいの頃かな…?同じ大学出身同士で飲み会をしたんだ。
その時に珍しく、絵美さんから相談されたことがあってね…。
『賢くて真面目なのに、本人は秘書の仕事が好きじゃないみたいで、ふと苦痛な表情を見せるの。
多分、私の予想だとこのままだと退職しそう。合わなければ致し方ないけれど、やっぱりあまりに早すぎる…。
でも、直属の先輩の私だと、アドバイスも叱咤と余計なお世話に繋がるしねぇ』ってね」
隣り合うもうひとつの絵美さんのデスクに凭れた課長の話に、私は一切の声が出せなかった。