エリートなあなた


そうして誇りを持って臨んでいた仕事と日本に別れを告げ、外交官である父と共にロンドンへ向かった母。



仕事に未練がないから結婚したんだし、真帆とパパと暮らせる今がすごく幸せよ。



無口だけれど優しいパパを選んで良かったわ、とロンドンでも時おり口にしていた。



2人の尊敬する両親があって私がある――それを実感していた、というのは口先だけだったのかもしれない。



仕事と結婚――そのフレーズが母の口から出るまで、まだ先のことだと他人事のように考えていた。



ようやく試作部での仕事に慣れ始め、少しずつ大変さの中に味わえる面白みが分かってきたばかり。



何よりもやり遂げたあとの達成感と満足感は、言葉で表せないほど最高だから、ずっと腰を据えて続けていきたいと思う。



修平さんと出会ってから2年以上経つけれど、まだ付き合い始めてたったの3ヶ月。



仕事で手いっぱいの新人だし、まして私たちはナイショの関係。そんな現実的な話へすぐに結びつくはずなかった。



ただ『過去も背負っていく』と、以前言ってくれた時はその場で泣きそうなほど嬉しかった。



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