エリートなあなた
――だけれど、昨日の今日で特に進展なんて見られるはずもない。
はぁ、と溜め息を吐き出して暫くすると、タクシーは青山のタワーマンション前で停車する。
料金を払い荷物を持って車外へ出ればすぐに走り去ってしまう車。日の暮れの早い冬空が、立ち尽くす私を室内へ向かえと急かすようだ。
タワーマンションの正面玄関で荷物を一旦下ろすと、バッグからある物を取り出した。
それは修平さんの部屋の鍵――黒いレザーのキーケースである。
『今日は真帆の方が早いから持ってて』と預かり、一日中大切にバッグの内ポケットへ沈めていたのだ。
オートロックを解錠して中へ入ると、少し経って訪れたエレベーターへ乗り込んだ。
目的の25階で降りて預けながら、ふと思うこと。…彼の未来に私はいるのだろうか、と。
答えの出るわけない自問自答を繰り返しつつ、キーケースの鍵で解錠し部屋へお邪魔した。
ブラウン基調のあたたかみあるリビングに、相変わらず開けっ放しのカーテンより臨む高層階からの夕暮れ時。
それに目を奪われながら近づくと、純粋に綺麗だと感じた目の前の綺麗な風景。
はたと気づき、ふふっと自嘲笑いを浮かべたところで思考をチェンジ。
――分からない先を恐れるより、今あるこの幸せを大切にするべきだと。
荷物を片づけてから急いで、以前も買いに行ったスーパーへとバッグだけを持って向かうことにした。