エリートなあなた
じわりじわり、嬉しさが沁み渡り、イケナイとは思いながらも自然と頬が緩んでしまう。
「さすが構造課自慢の美人係長だ」
「…よく言いますね」
「事実なのに」
「事実でしたら笑えませんよ?」
呆れた口調を返す私に対し、くすくすと小さく笑っているその顔はひどく優しい。
簡素なテーブルにデスクチェア数個が設置されたシンプルな空間。そこにはもう先ほどのような張りつめた空気は無かった。
資料などを持って席を立つ彼に私も立ち上がった。すると部屋のドアを開ける前に振り返った上司。
「明日の夜には、…嬉しい返事が貰えることを待ってるよ」
「――修平さん」
「あとはよろしくね、“吉川さん”」
思わず出ていた呼び方にも咎めることなく。仕立ての良いスーツを着た、ダークグレイの瞳を持つ上司は部屋を退出して行った。