エリートなあなた
ここで彼が待ち構えていたことは、ちょっと疑問に残るけれど。きっと泣かせた部下を心配して探したのだろう。
勝手に焦燥に駆られて泣いたのは私――社会人失格の行動にはどんな叱咤でも受けるつもりだ。
「良いから、顔を上げて。怒ってないから」
本当は床を見ていることさえ怖くて、ギュッと目を瞑っていた。そんな私の頭上から降って来たのは、穏やかな課長の声。
秘書室からわずかに聞こえる音以外は、このフロアに響くものは何もない。
ビルから臨む景色は都会の喧騒を映している。全面窓から差し込む光が、高層階のオフィスの中で向き合う私たちを穏やかに照らしていた。
「ありがとう、ございます」
それらがまた私に仕事であることを意識させてくれた。だからこそ落ち着いた涙の代わりに、今度は彼に微笑を返すことを選べた。
でなければ、きっと。優しい課長の方がまた、“ごめんね”と不要なフレーズを口にすると思ったから。
再び謝られても空虚感が包むだけ。課長にとっては同情だったという答えを貰うにすぎないもの。
課長の優しさは、万人に向けられるものだと承知しているから――