エリートなあなた
いつまでも化粧室の前で立ち止まっているのも居心地が悪い。
彼の提案でこの階の給湯室へ向かうと、設置されているコーヒー·サーバーで熱々のコーヒーを飲んだ。
「やっぱり苦いよね、こういうのって」
「ブラック、苦手でした?」
「いや、…喫茶店のが好きなんだよね」
コーヒー党にとって、インスタントのコーヒーは美味しいとお世辞にも言えない。
そう言う課長がカップに口をつけて苦笑する姿が可愛く見えるのは、どうしてなのだろう?
狭い空間に漂うコーヒーの芳ばしい香り、そして近づくとふわり届く課長の香り。
そのために私は給湯室の出口付近の壁に凭れて、彼との距離を保つことに始終気を配っていた。
「あの、…お時間大丈夫でしょうか?」
暫くすると堪らず、遠慮がちに尋ねてしまう。
――だって、忘れてはいけない。課長の相手は、大好きな先輩の絵美さん。
私はただ彼の日常の一片で、迷惑なトラブルを起こした張本人なだけのこと。