エリートなあなた
「場所を変えようか」と言われて、まずは専務秘書室へ向かい、不在にする部屋をロックした。
専務と絵美さんは不在だからこの部屋でも良かったのに、と思っていたとは課長には秘密だ。
何よりダークグレイの瞳は何を考えているのか分からなくて、ただついて行くしかない。
彼と一緒にエレベーターが到着を告げて降りた。そこは他部署の人間ならば縁のない、20階を占有している試作部。
――もちろん、もうすぐ秘書課2年目を迎える私も例外ではない。
よく頼まれて行く営業部などとは違い、エレベーターを降りた先にある重厚な鉄製のドアが威圧的だ。
すぐ部署へ入れない仕組みのそこで当たり前のように、指紋認証などのチェックを済ませた課長。
電子音がいくつも鳴って、ようやく入室可能になる仕組みらしい。すると感心していた私の方へ振り返った。
「吉川さん、危険物は持ってないよね?」
「えっ、もちろんです!」
「セキュリティの決まりで悪いけど、今回は携帯の電源OFFにしてくれるかな?」
「かしこまりました」
彼いわく部署内の情報漏えい対策は、厳重かつ難解性が求められるのだとか。
確かに、開発した製品や研究成果のことを思えば面倒とは言えないだろう…。