エリートなあなた
「ほら泣くのはアッチ!」と、笑った松岡さんに早く行けと背中を押されて。
ようやく駆け出すことが出来た時、背後のドアが静かに閉まる音が聞こえた。
屈んでくれていた彼の首へと腕を回して、もう離れることのないようギュッとすがりついてしまう。
「…っ、ひっ、」
「ただいま、真帆――会いたかったずっと」
「…っひ、…くっ」
ああ、このぬくもりだと心が安堵する――ただの一瞬も、忘れられなかった温度だから。
低音ボイスの甘い声だって、爽やかなフレグランスの香りだって、…何ひとつ変わっていなかった。
再会する時は、修平さんには私がどう見えるのかな?少しは、成長したと思ってくれるかな?とか。
再会のシチュエーションも想像して、その時をただひたすらに夢見て、帰国した彼にかける言葉だって考えてみたりした。
それを寂しい時の励みにして、ただ必死に目の前の仕事に打ち込んできたのに――