エリートなあなた


…私もここで働きたかった――単純にその気持ちを思い起こさせる光景だ。



「…さん、吉川さん聞いてる?」


「は、はい!?」


ぼーっとしていたところへ穏やかな声がかかり、慌てて視線を戻した。



「“ここのミーティングルームに入るよ”って言ったんだけどね」


するとダークグレイの眼差しは、いささか困惑気味。課長は苦笑を浮かべながら前方のドアを開けた。



「す、すみません!」


開けたまま待ってくれる彼に、ペコペコ何度も頭を下げて中へ入った。



やって来たここは、数席ほどの小会議室。試作部では他部署と呼び名が違うようだ。



「ハハッ!」


突如聞こえた笑い声に、「な、何でしょう!?」と思わず肩が跳ねてしまう。



「吉川さんって、…見た目と違って面白いよね」


「えええっ!?」


「ハハハッ、その反応とか、」


もちろん声の主はドアを閉めた課長である。目を細めて笑う姿はレアものだ。



< 38 / 367 >

この作品をシェア

pagetop