エリートなあなた
ドキドキとうるさい鼓動は置き去りにして、ひとりデスクに広げた物を片づけ始めた。
そんな私こと、吉川 真帆(ヨシカワマホ)はもうすぐ28歳を迎えるOLだ。
私が勤めるこの会社の名前はSJ社。日本支社であるここは、都内に自社ビルを構えている。
ちなみに本社はアメリカのシカゴにあり、グループ企業を含めて世界の従業員数が約5万人にのぼる大手製造業。
大元の事業形態は、鉄、プラスチック、化学製品など。そこから波及して現在は幅広い分野へ参入しており、関連会社もまた成功していると誉れ高い外資系企業。
となれば通常、社内公用語は英語であるはずが、本社と支社間の折り合いがやけに悪い。
本社への反発心から日本語がまかり通っているという、なんとも不思議な会社だと思う。
すると資料を片づけ終えたところへ、デスクに置いていた携帯電話が着信を告げた。
「――はい、構造課の吉川です。…かしこまりました、ただちに戻ります」
携帯をスーツの内ポケットへ沈めて、資料をすべて手に持つと、小会議室の電気を消してからフロアを走って行く。
ちなみに私の配属先は、試作部の構造課。前年の開発製品が大ヒットしたとか部署の人数不足などが重なり、幸運なことに係長の役職を頂いたばかりである。
明日はとうとう、彼との未来を拓く日を迎えられる――だけれど、今すべきことが先決。
そう教えてくれた上司との出会いから、私のすべては変わったの――