エリートなあなた
すると課長はひとさし指でトントン、と数回テーブルを叩く。以前と同じそれが、ピンと張りつめた空気に変える。
「秘書課の本筋はサポート業務――
適性はもちろんのこと、担当者と良好な関係を築くことが何よりも重要。
それに相俟って、細やかな気配りへ繋がると聞いているけど、どう?」
「ええ、…先輩方を見ていると感じます」
「つまり、別部署と同じスパンで異動させるのは色々と難しい面が発生する。形式的な引き継ぎでは解決できない部分があるとね…。
――事情はどうあれ、この部署も同じなんだ」
「どういう…?」
話が進むにつれて声音が変わっていく課長。とはいえ相手を威圧するところはなくて、すんなりと心に入って来る。
「つまり試作部はね、…確かに専門知識が相当必要かもしれない。
ここに在籍しているメンバーは、各々(おのおの)がスキルを持って入社しているからね。
でも、そんなの大した話じゃないんだよ?」
「…え?」
「平たく言えば、知識を活かす力――それがなければここで働けない。
付け加えて、試作開発で習得した技術経験を活かすセンスも必要かな?
未来で役立つために、腰を据えた研究に取り組めるように…。それを前提に、部署異動が行なわれない仕組みなんだよ」
“端折ったけど大丈夫?”と尋ねられて、「はい」とひとつ頷いてみせた。