エリートなあなた


柔和な態度でカラクリを説明してくれたけれど。なぜそれを、私に今するのかが分からない。



相変わらず、ダークグレイの眼差しはこちらを捉えて離さず。そろそろ心臓疲労が心配になって来る。



「ねえ吉川さん――ここへ来ない?」


「…は?」


「うん。スカウトしてるんだけど」


しばらく包んでいた沈黙を解いたのは、茶目っ気たっぷりの課長の声色。



両肘をテーブルへついて、両頬をその手に置いている彼。形の良い唇が紡いだのは結論らしい。



「…ええええ!?」


ようやく事態を呑み込んだ私の叫び声が、静かなミーティングルームで木霊した。



「――実は、新たに発足する課で吉川さんに働いて貰いたい、と思うんだけど。どう?」


「ど、どうって…」


それくらい想定内なのだろう、綺麗な表情の崩れない課長。唖然とする私の心をさらにぐらつかせる。



「――誰にでも訪れるチャンス、とは思えない?」


「っ…、」


頬から手を外した真剣な眼差しの課長と対峙する。ここぞの一撃はあまりに強力だ。


そのクールな面持ちと優しい声音のギャップに引き寄せられるようにして。



私の口からは「よろしくお願いします」と、頼りない声が出ていた…。



< 45 / 367 >

この作品をシェア

pagetop