エリートなあなた
柔和な態度でカラクリを説明してくれたけれど。なぜそれを、私に今するのかが分からない。
相変わらず、ダークグレイの眼差しはこちらを捉えて離さず。そろそろ心臓疲労が心配になって来る。
「ねえ吉川さん――ここへ来ない?」
「…は?」
「うん。スカウトしてるんだけど」
しばらく包んでいた沈黙を解いたのは、茶目っ気たっぷりの課長の声色。
両肘をテーブルへついて、両頬をその手に置いている彼。形の良い唇が紡いだのは結論らしい。
「…ええええ!?」
ようやく事態を呑み込んだ私の叫び声が、静かなミーティングルームで木霊した。
「――実は、新たに発足する課で吉川さんに働いて貰いたい、と思うんだけど。どう?」
「ど、どうって…」
それくらい想定内なのだろう、綺麗な表情の崩れない課長。唖然とする私の心をさらにぐらつかせる。
「――誰にでも訪れるチャンス、とは思えない?」
「っ…、」
頬から手を外した真剣な眼差しの課長と対峙する。ここぞの一撃はあまりに強力だ。
そのクールな面持ちと優しい声音のギャップに引き寄せられるようにして。
私の口からは「よろしくお願いします」と、頼りない声が出ていた…。