エリートなあなた


このSJ社へ入社する前――つまり大学の就活で私は、専攻の理工学分野と帰国子女のため英語を活かせる職種を重視していた。



複数の会社にエントリーした結果。社会人としての第一歩を踏み出す地として、OB訪問でシビアだと聞いて入社を決めた。



研究施設は最新設備が充実している。さらに実力成果主義の外資系企業なら好きな分野を極められる。希望を持って仕事に打ち込める、と思っていたから。



――その考えがシロップのように甘すぎた、と知ったのは入社直後のこと。



うわさ通りの厳しさを肌で感じた研修終了後。出された辞令は、どういうわけか総務部付の秘書課であった。



“美人って何もしなくても得よね”

秘書課を熱望しながら営業事務配属が決まった女子に、本心スルーで睨まれるというオプション付で…。


その言葉に同調する女子もいれば、窘めてくれる子もいたけれど。私は配属先がただただショックで、そんな戯れ言は正直どうでも良かった。



人当たりはあまり良くないし、帰国子女の割には人見知り。派手だと言われる外見よりも、実際のところ性格は地味…だと思う。


つまりは目立つ場所で働くことなど、まったく以って望んでいなかった。



製品開発の研究をしたくて、何より腰を据えて働きたいと選んだ企業だったのに。


まさに入社早々に私は、出鼻を挫かれた。そして社会の厳しさを初めて体感した。


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