エリートなあなた
ただ到着音とともにエレベーターを出ると、すぐに化粧室へと逃げ込んだ。バタン、と勢いよく閉めたドアを背にして凭れる。
「…ふっ、ひっ、…くっ、」
刹那、ポタポタと涙が頬を濡らしていく。叩かれた頬の痛みより、…言葉の刃は鋭くて傷を残す。我慢はもう、限界だった。
涙腺が刺激された今は涙を止められず、ひとり感情のままに身を委ねる。大人になると、泣ける時の方が少ないからと理由づけて…。
暫くしてハンカチで頬を拭っていた時、トントンと背後のドアをノックする音と振動が届き、
「…吉川さん、大丈夫だったか?」と、黒岩課長の穏やかな声がすぐに響いた。
鏡で慌てて自分の顔を見れば、頬に少しの赤みがある。それよりも涙で濡れている顔は、見られたものではない。
「吉川さん?」
「…えっ、と、…大丈夫、です」
「そうか、」
また呼ばれたのでドア越しに答えると、ドア向こうの声は明らかなほど安堵に満ちていた。
「ご迷惑ばかりお掛けして、…本当に、」
「迷惑じゃない――心配して来たんだ」
「…っ、」
ただ…謝罪を遮った課長の優しさは、新たな涙を生み出す。ポロポロ零れる涙には、情けなさが横行していく。