エリートなあなた


カタカタ、とPCと向き合っていたり、電話中のワントーン高い声音が響く秘書課の空気にもすっかり当たり前と化していた頃。


「これを至急、営業部の小会議室Aへ届けて欲しいの」

「…はい、分かりました」


ある日――先輩の絵美さんの指示を受け、8階にある営業部の会議室へ資料を届けに向かった。


他部署の上席への書類を届けることは下っ端の役目。しかし、“営業部”で停止したエレベーターを降りてもなお気分は降下していくようだ。


営業部が主に使用する会議室は、その部屋どれもが営業部のフロアを通らなければならない。


私服が許されている事務の女性とは違う、黒いスーツの制服姿ではどうしても浮いてしまう。


秘書課の音がいかに静かなものかと知れる喧騒の中、営業部の吹き抜けのフロアをコソコソ急ぎ足で通っていた刹那。


「“秘書課”の吉川さんが珍しいわね?」


「…ええ、ちょっとお届け物があって」


私はここへ来たくない理由――もとい、辞令交付の際に辛辣な言葉をお見舞いしてくれた、営業部の阿野さんが目ざとく現れた。


それこそ巻き髪と可愛い洋服の似合う彼女。ただ本年度、秘書課配属がひとりだった私を見る眼だけはとても厳しい。


現状で秘書課の定員はクリアしていること、また欠員が出た場合は即戦力の派遣を採用すると決めていたとか。つまりは、私ひとりがその枠にはまってしまった。


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