エリートなあなた
ちらほら通りすぎる人に会釈をしながら、きょろきょろとその場で辺りを見渡す。
全面ガラスの向こうは開放的な景色で、秘書課のある23階と同じだ。
ただ今日の東京はあいにくの曇り空。どこかすっきりしない心情とリンクする。
私がひとりで考えると決まってネガティブ思考だと、瑞穂からは注意されているけれど。
自嘲しながら前方へ視線を移すと、突きあたりすぐに構えるセキュリティ万全の入口。
鈍い鉛色のドアが放つツヤ加減がまた、右も左も分からない私に妙な緊張感を与えていく。
「吉川さん?おはよ、」
「へっ?あ、お、おはようございます!」
廊下の隅で佇んで眺めていた時、不意にかけられた声。跳ねかえったように挨拶をする。